子供たちの安心安全と、未来のために
令和元年11月23日(土)、新宿区立西新宿小学校において、「子供達を犯罪から守るための大人向け防犯講座」が開催されました。本講座は、東京都が行っている子供防犯教育人材育成事業として行われたもので、日頃から熱心に子供達に対する防犯教育に取り組んでいる教員、防犯ボランティア、保護者、行政職員に加え、警視庁のスクールサポーターら計40名ほどが参加しました。
講師を務めたのは、NPO法人日本こどもの安全教育総合研究所理事長の宮田美恵子さん、宮田講師は、まずはこれまでの学校安全の経緯を説明してくれました。
「2001年に大阪府の小学校で、子供が被害に遭う痛ましい事件が起きました。それまで、学校は“安全な場所”だと思われていましたが、安全神話に揺らぎを感じた人が増えたかもしれません。この事件をきっかけに、あらためて学校の門の施錠を確実に実施し、刺又などが小学校に置かれるようになりました。しかし、現在、若い先生の中には大阪の事件のことをよく知らず、『ただ決まりだからそうしている』という先生もいるかもしれません。また、学校内だけではなく通学路においても痛ましい事件が発生しています。今年5月には、川崎市の駅前でスクールバスを待っていた子供たちが襲われるという事件が起きてしまいました。このような子供が被害に遭う痛ましい事件が二度と起こらないようにするには、どうすればいいのか。今日は、皆さんとじっくり考えていきたいと思います。」
大阪府の事件からおよそ20年。これまで様々な立場の人が、様々な形で子供の安全教育や安全指導に携わってきました。宮田講師は、「子供たちをどう守るのか、何をどう教えるのか。目指す方向性や基準、定義といった根本のところから、改めて見直すことが必要なのだと思います。」と話しました。
国内の刑法犯認知件数は減少傾向にありますが、小学生を対象とした略取誘拐事件は毎年50件程度発生しており(平成28年は67件、平成29年は50件)、横ばいまたは微増といえる状況にあります。
「対策が急務なのは、子供が一人になってしまう“一人区間”です。集団下校を取り入れている小学校は多いですが、どうしても子供一人だけになってしまう区間があります。そこから自宅までの間、集団下校の列から離れて一人になったときが危険なのです。子供を狙う人は他人の目を嫌うので、登下校の時間帯に子供たちを見守る目を増やしたい。それには、熱心な地域の一部の人による組織活動に頼るだけではなく、見守り活動の裾野を広げ地域全体での協力が不可欠になります。また、1人区間に見守りの目を創り出すために、子どもの住むご近所の方のご協力をお願いしていきたい」と、宮田講師は参加者に語りました。
講義の中で宮田講師が推奨していたのは「見守りベンチ」(宮田,2012 )という取組です。子供が一人になってしまう「一人区間」の経路上にある住宅や会社の前にあるベンチを活用したり、自宅の前や敷地内に椅子を設置して、子供の登下校時間に合わせて、そのベンチや椅子に座って見守りを行うといったものです。
参加者による意見発表なども交え、宮田講師の講義は続きます。
「たとえば、従来の防犯指導では『不審者に気を付けよう』というのをよく耳にしてきました。そして、『不審者』像として黒い服を着て、サングラスをかけて、マスクをしているという姿を描きがちです。しかし現実として、子供を連れ去ったり、子供に危害を加えようとする人が、みなそのような姿をしている訳ではありませんし、男性だけとも限りません。」『不審者』の定義は広義過ぎる上、子どもにはわかりにくい。これに対し宮田講師は、『不審者』ではなく、そのまま『子供を狙う人』と言った方が伝わりやすい、と話します。
同様に、これまでは『知らない人』にも気を付けるように指導されてきましたが、犯人が顔見知りであるケースも少なくなく、『人』に注目すると齟齬が生じやすい。それよりも『行為』に注目して、子どもにとって怖いこと、嫌だと感じることを基準にする教え方を宮田講師は推奨します。
また、大人は普段子供に「人には親切にしてあげよう。」と教えている一方、「知らない人に話しかけられても無視しなさい」とも教えることがあります。では、知らない人が困って助けを求めてきた時はどうすれば良いのか、子供は「親切にしてあげたいけど、知らない人と関わってはいけないとお母さんに言われているし。どうしよう。」と、迷ってしまいます。宮田講師は子供のこの心理を「防犯モラルジレンマ」と名付けています。
みんなで「防犯モラルジレンマ学習」映像教材を見て、指導方法について宮田講師が詳しく説明し、子供の親切心を大切にしつつ、子供を危険から守る方法について、参加者全員で考えました。
これまでの子供に対する防犯教育のやり方について、改めて考えさせられる講義に、参加者は深くうなずき、熱心にメモをとっていました。
保護者のひとりに、感想を尋ねたところ
「わかりやすく、ためになる内容ばかりで、目から鱗が落ちた思いです。私自身も、『知らない人』という言葉で子供に言い聞かせていましたが、改めて『知らない人』という表現で良いのか考えさせられました。」
最後に挨拶に立ったのは、同校の清水仁校長です。清水校長は
「当校では普段から子供の安全教育を重視して行っており、学校周辺における地域安全マップを児童に作成させるなどしています。そうしてじっくり自分の住んでいる街の安全安心について考えさせ、もしも自分の身に危険が迫った時に、適切な行動が取れる子供になってもらいたいと思います。今後は町会や保護者の方々とも連携しながら西新宿を安心安全な街にし、やがて成人した子供たちに素晴らしい環境を引き継ぎたい。皆さんも、ぜひご協力ください。」
と、子供達の安全安心を守るためには、学校、地域、保護者などが力を合わせて取り組む必要があることを呼びかけ、会場は大きな拍手に包まれました。