令和4年11月30日、世田谷区の警視庁交通安全教育センターにおいて、今年度の青パトセミナーが開催されました。ここ数年は悪天候の中での開催が続いていましたが、今年は好天に恵まれ、青パト18台とドライバー37名が参加し、座学と実技を両立させたカリキュラムに取り組みました。
はじめに挨拶に立ったのは、東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部の藤原朋子課長。
「皆さまは既にご存じだと思いますが、都内の刑法犯認知件数のピークは、平成14年の約30万件。これが昨年の令和3年には約7万5000件と、およそ4分の1にまで減少しました。これはもちろん、警察や行政だけの力で達成したものではありません。『自分たちの街は自分たちで守ろう』と立ち上がって行動し、その行動を継続してくださった方々の存在が大きいのです。そして、その活動の一つのシンボル的な存在が、青パトです。今後も、やさしく安全な運転をしていただくためにも、このセミナーが実りあるものになればと願っています」
カリキュラムは例年どおり、前半が座学、後半が実技という二本立て。まずは「うさぎママのパトロール教室」を主宰する、安全インストラクターの武田信彦さんによる
と題した講義です。
武田さんは、まだ日本に「防犯ボランティア」という分野が確立していなかった、慶応大学在学中に活動を始めましたが、自らの豊富な経験から得た知見を基に全国で講師を務めています。その最大のテーマは、「一般市民ができる防犯(市民防犯)とは何か」ということ。
「ひと口に防犯といっても、警察が行える防犯と一般市民が行える防犯とには明確な違いがあります。警察の防犯は、権限の行使などを含む直接的な防犯、すなわち“犯罪抑止”が大きな役割となります。一方、私たち一般市民の防犯は、見守りや助け合いといった間接的な防犯、すなわち“犯罪防止”を担うことができます。笑顔やあいさつなど、優しさが欠かせません」と武田さん。
「だから、青パトを運転する際も、安全はもちろん、いつも以上に優しい運転を心がけてほしい」と続けます。
防犯ボランティアが目指すべきポイントは主に2点。
①犯罪が起きにくい環境づくり
②助け合いの環境づくり
それを実現するためにも、「笑顔と挨拶の見守り」が重要だと武田さんは説きます。そして、おもに女性や子供が狙われる犯罪が起きやすい場面を提示しつつ、「特定の場所ではなく、“ひとりになる瞬間”に注意するよう啓発が大切」と具体的に指導してくれました。
「皆さまの防犯活動は、地域の安全安心とともに、子供たちへの重要なメッセージにもなっています!」とエールを送ってくれました。
第二部はコースに出て、いつものパトロールで乗っている車を使用しての実技(運転技能訓練)です。
この日の運転技能訓練は、二班に分かれて、「運動機能・判断力に関する課題」と、「車両感覚・死角の再確認」を交代で実施。
「車両感覚・死角の再確認」は、警視庁交通安全教育センター指導員の下、実際に車両を使用して行いました。運転席から特に見えにくい助手席側、右後ろ方向、そしてルームミラーでしか確認できない後ろ方向等の死角について、指導員が移動して、足の位置が見えるまでの距離や、全く姿が見えなくなる状況を確認しました。
日頃なんとなく見えづらいと分かってはいたものの、改めて、視認できない範囲が広範囲にわたることを再認識。参加者からは、「車線変更の際の右後ろ方にいる車や、助手席側(歩道側)を走行するバイクは、自分の車からこんなに離れた位置でないと見えないのですね。良い体験をしました。」との感想がありました。
「運動機能・判断力に関する課題」では、スラローム走行と急ブレーキテストを体験。
指導員から「スラローム走行は、ハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作を同時に行う運転の基本です。スピードを出す必要はありませんので、パイロンの間を正確に走行し、その後は時速30㎞で走行してください。」と運転の基本とコース走行の説明を受け、一台ずつ順番にスタート。運転に自信があるのか、つい日頃の癖が出てしまい片手ハンドルで運転する人も見られましたが、ほとんどの人がゆっくりと慎重に運転し、真剣にスラロームを抜けて直線コースへ。ところが、ゴール寸前で障害物が出現!!!子供の「人形」が駐車中のトラックの陰から突然飛び出してきたのです。
スラロームを無事に走行して安心しているところに、事前説明も無く思わぬ仕掛が用意されるという、通常にはあまり想定されない、とても難しい仕掛けであったため、きちんとブレーキを踏んで止まれたのは37名中2名だけ、という“難関”になりました。
「あれには本当に驚きました。全く予想していなかったので瞬時の対応ができず、ブレーキ操作も遅れてしまいました。」とは、ある参加者の弁です。「機会があれば来年また挑戦して、そのときは絶対に合格してみせますよ。」と、前向きに語ってくれました。
指導員から、「止まることができた2名は、トラックの手前でスピードを落としていました。トラックが停まっていて“見えにくい”“もしかしたら何かでてくるかも”という予測をしたのだと思います。ほとんどの皆さんはスラローム走行が終わってホッとしたのと、30㎞というスピードを維持するためにメーターに目が行っていたのではないかと思います。これが本当の事故だったら大変なことになっています。普段生活で車を乗るときも意識してほしいですが、青色パトロール車を運転している時は、特に事前の危険予測を意識して安全運転を心がけ、事故防止でパトロールに励んでください。」との総評がありました。
今年も多様な青パトが参加していましたが、町田市から来た参加者の車両はなんと軽トラ。ドライバーに話を聞いてみると、ちょっと特殊な事情があることがわかりました。
「これは本来、不法投棄されたゴミを回収するための車です。夜間にパトロールすることが多いので、それなら防犯にも役立てようということになり、青パトに登録して兼用しています。」
さきほどの講義で武田さんは、「残念ながら、青パトはまだ認知度が高いとはいえないので、自分たちの活動を周囲に知らせる必要があります。」と話していましたが、この町田市の車両などは目を引きやすいのかもしれません。
座学と実技を合わせて4時間の長丁場。終了したときには陽が落ちて暗くなっていましたが、参加者の皆さんは充足感いっぱいの明るい表情で帰途につきました。
【取材日:令和4年11月10日】
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